cave hatano

醸造家のひとりごと

季節と生物

2021/12/18

北半球に住む生物は、早春に活動を始め、晩秋に活動を終え、眠りにつき、次の春が来ると

また活動を再開する。植物も動物も虫も微生物も。

私を含め大自然の営みから外れた人類は、周りの生き物を見ない限り、気温と太陽の角度くらいでしか

季節の変化を感じる事ができないと思うが、我々以外の生き物は様々な感覚で季節を捉えていることがわかる。

 

今回の考察の対象はワインを発酵させる微生物、つまり酵母。

一般にワインをアルコール発酵させる酵母はブドウ畑やワイナリーに住みついている自然酵母と

人の手によって選抜培養された乾燥酵母がある。前者が季節のサイクルに沿って活動するのは

容易に想像できる。面白いのは乾燥酵母となり何年も冷蔵庫で眠っていた酵母でさえ果汁に触れ

活動を再開させた瞬間から季節のサイクルを感じ取っている。

 

ワイナリーのある長野県東御市標高850mでは10月半ばに霜が降りる。

気温が下がり湿度も下がる。木々は紅葉し、虫は冬眠し、9月ならすぐに酢酸腐をおこす蜂や虫に食われた

葡萄でさえも10月の終わりには腐らなくなる。もちろん食べかけの夕食のおかずだって腐らない 笑

9月の収穫は管理の行き届かない畑では至る所で発酵臭に出会えるが11月の畑はほぼ無臭だ。

 

ワイナリーでは9月の初旬に仕込みが始まる。冷蔵庫で冷やしたブドウを搾り15℃のセラーで1日

静置すると品温は13℃〜15℃ほどになる。そこに酵母を添加すると翌日には発酵は順調に始まり

自らの発酵熱で温度も一気に25℃近くまで上がり(この間もずっとセラーで冷やしている)

一週間から10日ほどでほぼ糖分を食い尽くす。

対して標高の高い畑の仕込みは11月中旬になる。この時期はワイナリー内の気温もグッと落ち

温度コントロールをしなくても搾った果汁は13℃〜15℃になる。そこに同じように酵母を添加する。

1日、2日、、3日、、、湧かない。4日、、5日、、6日、、1週間経ちようやく微細な泡がピチピチと沸き始める

2週間経っても本格的な発酵状態にはならず。痺れを切らしてこの頃には加温を始める。

それでも品温は15℃程度。結局、12月中旬の今現在も発酵は終わらずに毎日チビチビ泡を出している。

8月に仕込みをしている長野県外の醸造家の話では10℃まで品温を下げても直ちに発酵が始まり10日ほどで

終わるらしい。

 

このような酵母の動きを観察していると、彼らはタンクの中の隔離された環境下でさえも明らかに

温度以外の“何か“の影響を感じ取っている。

それが太陽の角度なのか、月の満ち欠けなのか、気圧なのか、磁場なのか、他の生物の出す振動なのか

今の私にはまだわからない。

でもそのわからない“なにか“によって生じる世界が確かにそこにあるとわかる事がとても楽しい。

そしてその“なにか“の一部として、その世界により添って生きていけたら幸せだと思う。

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